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東京地方裁判所 昭和43年(手ワ)4451号 判決 1970年9月01日

両事件原告 埼玉農機株式会社

右代表者代表取締役 加藤寅雄

右訴訟代理人弁護士 各務勇

同 田中学

昭和四三年(手ワ)第四四五一号事件被告 株式会社ムツミ建材こと朝倉三郎

右訴訟代理人弁護士 貝塚次郎

昭和四四年(ワ)第三五四三号事件被告 本多嘉吉

右訴訟代理人弁護士 古長設志

主文

一、(昭和四三年(手ワ)第四四五一号事件につき)原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、(昭和四四年(ワ)三五四三号事件につき)被告は原告に対し金二〇〇万円およびこれに対する昭和四三年八月二五日より完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決はかりに執行することができる。

原被告間の当庁昭和四三年(手ワ)第四、四五一号約束手形金請求事件の手形判決を全部取消す。

事実

一、申立

(一)  原告

「被告らは各自原告に対し金二〇〇万円およびこれに対する昭和四三年八月二五日より完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

(二)  被告両名

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決を求める。

二、主張

(一)  請求の原因

1  原告は次の約束手形一通を所持している。

金額   二〇〇万円

満期   昭和四三年八月二五日

支払地  東京都豊島区

支払場所 大東京信用組合大塚支店

振出人  北信建設株式会社

振出日  昭和四三年四月三〇日

振出地  東京都豊島区

受取人第一裏書人 株式会社ムツミ建材

被裏書人  白地

第二裏書人 本多嘉吉

被裏書人  白地

第三裏書人 吉永包保

被裏書人  白地

各裏書人は拒絶証書の作成を免除している。

2  右手形の第一裏書人は「東京都中央区銀座東五丁目三番地株式会社ムツミ建材代表取締役社長朝倉三郎」と記載されているが、右肩書地に右会社は実在せず、右裏書は被告朝倉がなしたものである。被告本多は第二裏書人として右手形に裏書をしたものである。

3  右手形の振出人北信建設株式会社は昭和四三年五月三一日銀行取引停止処分を受け支払を停止した。そこで原告は右手形を満期前である昭和四三年七月一二日右振出人会社の営業所(東京都豊島区西巣鴨二の二〇四六栄ビル)に支払のため呈示したが、その支払を受けられなかった。なお同日原告は右手形を手形上に記載された支払場所にも支払のため呈示したが、支払を受けられなかった。

4  かりに被告朝倉が右約束手形の裏書をしたのではないとしても、右裏書は訴外株式会社ムツミ建材の設立に関してなされた行為であり、同会社は不成立に終ったので、被告朝倉はその発起人として支払の責任がある。

5  よって原告は被告らに対し、各自右手形金およびこれに対する満期である昭和四三年八月二五日より完済まで法定の年六分の割合による利息の支払を求める。

(二)  請求の原因に対する答弁

1  被告朝倉

原告がその主張のような記載のある約束手形を所持していること、被告朝倉が訴外株式会社ムツミ建材設立のために発起人になったことがあること、しかし同会社は不成立に終り実在したことがないことは認める。しかし被告朝倉は本件約束手形に裏書したことはなく、また右裏書は右会社設立に関して為されたものでもない。その余の原告主張事実は知らない。

2  被告本多

原告が本件手形を満期前に振出人会社の営業所に呈示したとの点は否認し、その余の原告主張事実は認める。

≪以下事実省略≫

理由

一、昭和四三年(手ワ)第四四五一号事件について

原告がその主張のような記載のある約束手形一通を所持すること、右手形の第一裏書人である訴外株式会社ムツミ建材なる会社は被告朝倉が発起人の一人として設立しようとしたものであるが成立するに至らなかったことは当事者間に争いがないが、右手形の裏書人として右会社の代表取締役朝倉三郎名義でなされた署名が被告朝倉によって、もしくはその意思にもとづき他の何人かによってなされたこと、または右裏書行為が右会社の設立に関する行為として為されたことを認むべき証拠はない。よって被告朝倉に対し本件手形金の支払を求める原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく失当である。

二、昭和四四年(ワ)第三五四三号事件について

原告主張の請求原因事実は、原告が本件約束手形をその満期前である昭和四三年七月一二日振出人に対しその営業所において支払のため呈示をなした点を除いては当事者間に争いがない。そこで右争点について検討すると、証人清水登の証言によれば、原告会社の社員である同人は本件手形の振出人である北信建設株式会社が銀行取引停止処分を受けたことを知って、本件手形を持参し昭和四三年七月一二日右振出人会社の営業所である東京都豊島区西巣鴨二の二〇四六栄ビルに赴いたが、右ビル三階にあった右会社の営業所は既に閉鎖されて誰もおらず、その行先も不明で本件手形を呈示すべき相手方に出会うことができなかったことが認められ、右認定を左右すべき証拠はない。

ところで、約束手形の振出人が支払を停止した場合、所持人は満期前でも振出人の営業所または住所に手形を呈示すれば、それによって呈示の効力を生ずると解すべきであり、かつ手形を所持してこれを呈示すべき場所におもむいても被呈示者に出会うことができなかった場合には、呈示に対し支払拒絶がなされたと同様の効力を認むべきである。したがって前認定事実によれば、原告は本件手形の裏書人に対し遡求権保全の要件をそなえたというべきである。

そこで被告本多の抗弁について検討するに、その主張事実を認むべき証拠はなく、その抗弁は理由がない。

右認定事実によれば原告の被告本多に対する本訴請求は理由があるからこれを認容すべきである。

三、よって民訴法八九条、一九六条、四五七条二項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 白石悦穂)

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